湖国で輝く企業を訪ねて                      ー髙橋繊維工業株式会社 ー

人材不足、後継者不足にあえぐ業界のなか
品質を高め、高付加価値の製品開発で次代へ

髙橋繊維工業株式会社/代表取締役 髙橋 賢一 氏

琵琶湖で使う「漁網」用の撚糸製造から創業

   布は糸からつくられますが、材料の糸も、元になる細い「原糸」を幾本かまとめてねじり、撚り合わせることでつくられます。撚りをかけた糸や、糸に撚りをかけることを「撚糸」と呼び、原糸を一本の丈夫で扱いやすい糸にするために不可欠な工程です。

 「“腕によりをかける”という言葉は、糸に撚りをかけると質が上がる、強くなるということに由来しています。“よりを戻す”というのも、撚りをほどいて原糸にする、つまり元に戻るということ。慣用句に用いられることが多いのは、それだけ糸を撚る作業が古くから人々の生活に身近だったということでしょう」。こう話してくれたのは、髙橋繊維工業株式会社の髙橋賢一社長。漁網をはじめ、建築資材や自動車部品、高機能繊維などに用いられる撚糸の製造を手掛け、高島市を拠点に守山市にも工場を展開しています。

 創業は72年前の昭和26年。祖父の重夫さんが大津市膳所で小さな町工場を開いたのが始まりでした。琵琶湖の漁業者向けに漁網を製造しているメーカーが守山にあり、その専属の撚糸工場として事業をスタートしたといいます。大津には原糸を製造する繊維メーカーがあったため材料調達にも便利で、父の直之さんが社長となったころには県外の漁網メーカーの撚糸も手掛けるようになっていました。

 販路が広がったことで工場が手狭になり、高島市に本社工場を移転したのは昭和53年、賢一社長が高校生のころのことです。好景気に乗って生産量が拡大していくなか、大学卒業後、大阪で別業態メーカーの営業として経験を積み、昭和60年に家業に就きました。製造現場で一から学び、「工場内の掃除から叩き込まれて、とにかく必死で最初の数年のことはほとんど覚えていないくらいなんです。体重も1年で10kgほど減りました」と苦笑いで振り返ります。

建築など陸上資材用の撚糸を2つ目の柱に

 大きな転機となったのは賢一社長が入社して間もない1980年代後半、円高の影響で漁網メーカーが海外に製造拠点を移したことでした。水産資材用の撚糸の需要が急速に減少するなか、父の直之さんは陸上資材に活路を見出します。建設現場の養生シートや人工芝マット用の糸、自動車エンジンのラジエーターホース用の糸など、製品を増やしていきました。

 陸上資材を取り扱うなかで課題となったのが製品に対する従業員の意識でした。漁網用では通用していた品質が陸上資材用では全く通用しません。これに対する意識改革にはかなりの時間を要しましたが、品質を第一に企業努力を重ね、現在では陸上資材が売上の6割を占めるまでになり、漁網とあわせて事業の2本柱になっています。

 平成16年には賢一社長が代表に就任しますが、父が病に倒れたことによる予期せぬ代替わりだったため、経営方針や資金繰りについてはまさに手探りでした。さらに平成20年のリーマンショックでは建設業などが大打撃を受けたこともあり、陸上資材用途の製品は軒並み受注が激減、売上は半分に落ち込みます。幸い水産業は影響が少なく、消耗品である漁網の需要に変化がなかったため、漁網メーカーに営業をかけ、支出を抑えてなんとか危機を脱しました。

 一方、陸上資材についても開発に力を入れるよう舵を切りました。新しい素材への挑戦や、素材の組み合わせの調整など、顧客の求めに応じた製品づくりを行い、ときには得意先の工場を訪ねて自社製品が使われる生産現場を見学し、糸の巻き形状などの規格変更や、顧客の作業効率を向上させるための提案なども行うようになりました。製品開発の相談を持ち込まれることも多くなり、難しい案件でも「まず取り組んでみる」という姿勢を重視してきました。立ち消えになった企画も数多くありますが、開発を通じて顧客からの信頼度は増し、また従業員間の絆が深まったことで、得たものは大きいといいます。

縮小傾向にある業界のなか、技術力で生き残りへ

 開発に当たっては、製品の特性上、機械などを新しくすることがほぼ不要なため、設備投資に資金を割く必要が少なく、大きな利点となってきました。しかし一方で使用する機械に80~90年代製のものが多く、修理用の部品が無かったり、メーカー自体が廃業しているケースも増えています。代用部品の製造を依頼していた鉄工所も後継者が不足するなか、長年機械管理を担ってきた工場長を中心にメンテナンスの工房を設置、溶接機械なども揃えて自社対応できるよう設備を整えました。

 また撚糸業界自体も後継者不足は深刻で、いまや県内組合に加盟する企業はピーク時の1/10にまで減少しています。一方で賢一社長が若手のころから全国の同業者との情報交換や勉強会が盛んになり、不得手な加工を他の組合員に依頼し、注文銘柄を増やす企業など相互扶助の体制も生まれ、それらの取り組みにも積極的に参画してきました。

 社内においては今後の人材不足を見越し、働きやすい環境づくりや人材育成にも力を入れています。技術を「見て盗む」という旧来の方法を刷新し、古参技術者がもつ情報を文章や写真に残して公開し、若手がリピートして学べるよう技術のアウトプットに努めています。また、機械の稼働時間が売上に比例するこの業界にあって、長時間労働の撤廃にも力を入れてきました。3年前から後継者となるべく長男が家業に就いたことで、若手を中心に働き方は変わりつつあるといいます。

 短い稼働時間で売上を伸ばしていくためには、付加価値の高い製品や独自の技術が不可欠であり、「単価が高くてもここに頼みたい」といわれるよう企業力を高めていかねばなりません。開発に力を入れるうえでは「決して便利屋になってはいけない」と考え、仕事が煩雑化して製造現場が混乱しないよう収益性を見極める厳しい視点も重要だと語ります。

 漁業者が減り、また自動車のEV化でエンジン関連の資材も需要が減少する見通しにあり、業界は縮小傾向にあります。そのなかで現在、もう一つの柱にすべく新事業にも着手しているといいます。時勢を読み、変化を恐れずに新しい取り組みを実践していく姿勢が、次へ続く糸を紡いでいくことでしょう。

 

企業データ

本社//高島市新旭町新庄522-2
創業//昭和26年(1951年)
従業員/16名
事業内容/撚糸製造販売
HP/公式HPはこちら>>

企業ポリシー

●品質を第一とし、得意先の要望に応える。
●日ごろより時勢を注視し、変化を恐れず新しい取り組みを実践する。
●仕事を通じて心豊かな人になるよう、労働環境を整える。

>>「湖国で輝く企業を訪ねて」PDF版はこちら(PDF形式:1.8MB)

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