湖国で輝く企業を訪ねて                                          ー有限会社いと重菓舗ー

歴史・伝統の継承と経営改善を両輪に
時代の流れを読み新たなチャレンジへ

有限会社いと重菓舗/代表取締役 藤田武史 氏

震災を経験し、中小企業の弱さを痛感

いと重菓舗看板 彦根藩井伊家御用達の菓子商として210年以上に亘って城下町で愛され続ける有限会社いと重菓舗。もとは「糸屋重兵衛」の名で糸問屋を営んでおり、文化6年(1809年)に菓子業に転じました。とくに茶道に造詣の深かった十一代彦根藩主・井伊直弼は、糸屋重兵衛の菓子を重用し、自ら彫った柳文様の木型を貸し与えて砂糖菓子を作らせたとも伝わっています。

現店主で七代目の藤田武史社長が家業を引き継いだのは平成11年、27歳の時。それまでは神戸で銀行員として地元の中小企業への支援に奔走していましたが、平成7年に起こった阪神淡路大震災を経験し、中小企業の経営がいかに不安定なものであるかを痛感したといいます。

さらにその後の山一證券の経営破綻など、被災企業に追い打ちをかけるような金融危機に直面するなかで、改めて家業の経営状況に目を向け、先行きに大きな不安を感じたと藤田社長は当時を振り返ります。「万一、災害などで休業を強いられれば、たちまち立ち行かなくなる。このままにはしておけない」と考え、200年続いた暖簾を守るために、大きな困難に立ち向かう覚悟で実家に戻ることを決意しました。

生産効率を見直し、経営の立て直しを図る

業務風景経営を立て直すために藤田社長がまず取り組んだのが、製造ラインの見直しでした。設備を全面的に刷新するのは予算的に難しいものの、機械の配置を変えて作業導線を短縮し、流れを整えることで生産性を上げることは可能だと考えました。一方で、材料や製品が停滞しがちな箇所は効率化のボトルネックになるため、優先的に設備を導入。同時に在庫管理を徹底して商品の見直しを行い、アイテム数を大幅に絞り込みました。

また、観光地・彦根にいくつもの店舗を構える同社の場合、季節による販売数の変動が大きく、閑散期でも繁忙期と同様の固定費が掛かることが課題の一つでした。固定費を下げる努力とあわせて、売上の変動幅を少しでも解消できるよう、通信販売や中元歳暮の販売促進に力を入れました。埋れ木

さらには知名度を向上させるため、全国の百貨店の催事に出向き、積極的に営業活動を行いました。一人でも多くの人の印象に残るようにと、一点突破戦略でアピールしたのが銘菓『埋れ木』です。この菓子は井伊直弼公が若き日を過ごした『埋れ木舎』にちなんだもので、地元では茶菓子や贈答の定番としてよく知られていますが、各地での催事販売や広告への掲載などもこの看板商品を中心とし、「いまでは、いと重の名前より埋れ木の方がよく知られるようになりました」と藤田社長は作戦の成果に満足の笑みを見せます。

こうした地道な努力により経営状況が少しずつ上向いていくなか、追い風が吹きます。2017年に彦根城築城400年祭が開催され、そのイメージキャラクター「ひこにゃん」の大ブームがまちに多くの人を呼び込み、業績改善を後押ししてくれたのでした。

『一味真』の精神で商品開発に取り組む

和こんレアチーズケーキ 改善に取り組む一方で、同社がその長い歴史のなかで変わらず菓子づくりの原点として大切にしてきたのは『一味真』( いちみしん)という言葉です。井伊直弼公の『一期一会』の心に通じるもので、「いつ誰が食べてもおいしいと思える味を、一つひとつ真心こめてつくる」という意味が込められています。

この思いは和菓子だけでなく、洋菓子の商品開発にも注がれました。チーズケーキやアイスクリームなどに和の素材を合わせた菓子は、単に奇をてらうものではなく老舗ならではの高い完成度で“和魂洋才”を実現し、ファンを増やしています。

「ただ、新しくするばかりが良いとも限らず、改善策をさらに見直すこともありました」と藤田社長。新しい工場を建てた際には製造ラインがより円滑になったものの、温度・湿度管理などが旧社屋と大きく異なるために菓子の出来上がりが微妙に変わってしまいました。「菓子は生き物である」と改めて実感し、品質を保つために試行錯誤したといいます。埋れ木製造写真

また、売れ筋商品を絞り込んだ際には、効率化を追求しすぎると、多様な菓子をつくっていたころの職人の技術が後進に継承できないという問題も浮かびあがってきました。お客様のニーズへの対応と技術継承の両方を見据えながら、いかに喜ばれる商品を作ることが大切かに気づくことができました。

地元彦根で300年をめざして

埋れ木きなこ 変えるもの、変えないものを見定めるのは難しく、例えば前述の『埋れ木』は、変わらぬ味を長く愛するファンあってこその看板商品といえます。イメージを損ねず新たな挑戦をと考えた藤田社長は、創業210年記念として、実験的に1週間限定で「きなこ」味を販売。すると予想以上の大好評となり、以後さくらやほうじ茶など限定販売を継続して行っています。また、「彦根は小さいまちながら3つの大学があり、その環境を生かさない手はない」と、今後は大学の協力を得て学生の意見を商品開発などの参考にしていくことも検討中。次世代へ、そして来る創業300年に向けて。伝統の灯をつないでいくための方法の模索も始めようとしています。

代表取締役藤田武史氏インタビュー中写真 新型コロナウイルス流行下では、菓子や観光業界全体が厳しい環境に置かれましたが、同社はそれまでに経営の健全化を図れていたことが下支えとなり、危機を回避することができました。そして令和7年には彦根城が世界遺産に登録される可能性が高まっており、大きなチャンスになると期待が寄せられています。そのなかで藤田社長は、いと重菓舗の歴史やブランドイメージをアピールできる施設を創業地である彦根に開設したいと考えています。「いま現在、幸いにも大きなダメージを受けていないとはいえ、世の中の先行きが見えないなか、大きな投資は難しい状況です。いまあるもの、いまできることを生かして、彦根にたくさんの方が来ていただけるような場を創り出せれば」と地域密着企業として新たなビジョンを描こうとしています。

身近な人を幸せにする経営で
その輪を地域へ、社会へと広げたい

埋れ木さくら 家業を受け継いで20年余り。「突然の災害にも耐える健全経営を」との思いで改善に取り組んできました。そのために下した数々の決断は難しいものばかりで、「本当にこれでよかったのか」と苦しい思いで振り返ることも度々ありましたが、このたびのコロナ禍でも危機をうまく回避でき、安定経営を継続できたことで報われたように感じています。顧客満足はもちろんのこと、取引先や地域の方々、従業員などまわりにいる人の生活を支え、幸せを考えていくことは企業の代表としての大きな使命です。一人ひとりが隣にいる人の幸せを考え、行動することができれば、SDGsの掲げる目標を実践することにもつながるのではないか。そんな考えを大切にしながら、商いを通してこの幸せの輪をさらに広げていきたいと思っています。

企業データ

本社/彦根市本町1丁目3-37
創業/文化6年(1809年)
従業員/31名
事業内容/菓子の製造販売
HP/公式HPはこちら>>

いと重菓舗本店外見

企業ポリシー

●『一味真』の精神を忘れず、真心こめてつくった菓子で幸せな時間を提供する。
●地元彦根で老舗の伝統と歴史を継承し続ける。
●家業を通じてまわりの人々の暮らしを支え、幸せの輪を広げていく。

>>「湖国で輝く企業を訪ねて」PDF版はこちら(PDF形式:1MB)

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