時代の変化に対応した新しい商いのあり方を考える
古いものに新しい価値を見出し、橋渡しを

有限会社カネヒョウ/代表取締役 熊木 巌 氏

百貨店の催事に出店、東京にも進出

 明治40年、古道具商『八日市熊木道具店』として創業した有限会社カネヒョウ。当時は書画骨董だけでなく生活道具や衣類など不要になったものを買い取り、“熊木道具市場”という今でいうオークション会場を開催して古道具商に販売していました。道具市場は月3回、7の付く日に開かれ、1日に非常に多くの品物が取り引きされていた記録が古い台帳に残っています。古い台帳

 4代目に当たる熊木 巌社長が入社したのは42年前。その頃になると、古道具以外に仏壇仏具の販売も行っていました。昭和43年に仏壇の熊木水口支店を開設、昭和51年には骨董品・仏壇仏具専門店として、株式会社熊木を設立し、50~60年代には仏壇の売上が飛躍的に伸びました。信仰に厚く先祖を大切にする土地柄であったことから、暮らしが豊かになるにつれ、高価な仏壇のニーズが高まっていきました。

熊木巌社長

 先代から骨董部門を任されることになった熊木社長は、百貨店の催事や大規模な骨董市などに積極的に出店するようになり、やがて東京の百貨店からも声がかかるように。「百貨店は持って行く品物に厳しかったが、なんとか認められたいと一生懸命だった。昔は家で冠婚葬祭をしたので、地元ではたくさんの陶器や漆器を買い取ることが多く、そういうものを持って行くと東京のお客様にたいへん喜ばれた」ということで、催事に出店すると必ず足を運んでくださるお得意さんが増えていきました。

 そこで東京に拠点を開設することになり、最初は御茶ノ水に複数の骨董店で一つの店舗を開設、その後原宿に移って単独で支店をオープンしました。当時はバブルの頃で出店には高額な保証金が必要でしたが、「どうしてもやりたいという思いで先代を動かすことができた。バブル崩壊や景気後退など苦しい時も、ずっと付き合いのあるお客様のためにとなんとかがんばってこられた」と振り返ります。

 そして、平成16年に株式会社熊木の骨董部門が独立分社化され、有限会社カネヒョウが設立、平成26年に熊木社長がカネヒョウの代表取締役に就任しました。

拡大するリユースマーケットの中でも、道具市場の役割に期待

 インターネット普及により簡単に情報が手に入るようになったことや、テレビの鑑定番組などの影響で、古道具や骨董に興味を持つ人の裾野は広がり、建て替えなどで一緒に解体され廃棄されることが多かった道具類も、引き取りを依頼されるケースが増えました。

 一方で、オークションで売れる品物も客層も時代によって変わり、かつては欧米人が中心だった海外からの買い付けも、ここ10年で中国や台湾のバイヤーが急増、中国の美術工芸品や日本の骨董や日用品などを大量に仕入れていくようになりました。骨董品

  道具市場も現在は準備がたいへんなこともあって今は月1回の開催になりましたが、オークションの収益は大きな収入源で今も売上の柱となっています。熊木道具市場は関西でも有数の歴史の古い市場で、毎回100人もの業者が集まりますが、新型コロナウイルスの流行により、感染拡大防止の観点から昨年2カ月間、休止を余儀なくされました。

 全国の道具市場は、リサイクルショップの新規参入やインターネットを介した個人間取引の台頭もあり、廃業にいたることもあるといいます。リユースマーケット規模は拡大傾向にありますが、コロナ禍で事業形態を再点検する時が来ています。

 改めて問題点を整理したところ、大勢が密集する環境を作ってしまうことが難点であるだけで、落札者が当日決済して商品を持ち帰ることが多いことや、取扱いしている品物が実際に目で見ないとネット販売のみでは評価が難しいものも多いことから、引き続き道具市場の果たす役割は今後も大きいと熊木社長は結論づけました。

骨董品 以前から手狭であったため、新店舗の建設を計画していましたが、「これまで以上にたくさんの品物を扱えるようにしただけでなく、感染防止対策を施して来場者が安心して取引できるよう配慮した」と来年1月竣工予定の新店舗に期待を寄せています。

 とはいえ、多くの道具市場では取引量の低下から、オークション出品手数料だけでなく、落札手数料も求めるようになり、同社も今年から同様の取り扱いにするなど業界全体の収益構造が変化しているのは明らかです。これまで多くのバイヤーに全国から滋賀まで毎月足を運んでもらえたのは、それだけ魅力ある品物が集まる道具市場であることが理由である反面、そのために、出品のタイミングや終了時間が見通しにくくなり、出品者・落札者だけでなく、会場を提供している同社にとっても負荷が高かったことも事実です。

 そこでコロナ禍における新常態として例えば、品目を限定して道具市場を複数回開くなど、設備稼働率と回転率をあげることで生産性を高めることも新店舗の課題だと熊木社長は考えています。

時代の変化に対応した新しい商いのあり方

 「子どもの頃、祖父に連れられて行った道具市場はとても活気があり、自分もこの仕事をしたいと思うようになった」と言う熊木社長。「仕事を始めてから特に勉強したわけではないのに、日々たくさんの品物を扱ったおかげで自然に価値を見分ける力がついた。失敗もたくさんしたが、長い経験の中で培われたものは確か」と自負しています。

熊木社長の接客の様子 「もちろんどんなに経験を積んでもすべてがわかるわけではないが、道具や骨董にはわからないからおもしろいようなところがあって、すべてわかっていたらただ安く買うことしか考えなくなってしまう。骨董屋は品物に惚れてはいけないと言われるが、これを商材として扱いたいという思いは大切にしていて、それがなければ品物の中にある魅力を見出すことはできないと思う」ということばからは、仕事への矜持が感じ取れます。 

 およそ15年前から息子さんら次世代の育成にも努め、近年では道具市場に出す品物を手分けして全国から集めるほか、ネットオークションの出店を任せていて、道具市場やイベントが中止になる中では、ネットオークションの反響は予想以上に大きく手応えを感じています。
 ただ、熊木社長はネット販売の存在感が増しても、やはりかつて賑わいをみせた催事販売へ想いを馳せます。全国でワクチン接種が進み、感染防止対策がとられた中で、再びイベントが開催されることを心待ちにしています。催事の様子

 効率的な道具市場の運営、顔を合わせた催事への出店、新しいファンを作るネット販売の3本の柱で、その幹を太くすることに注力しながら、次のステージへの展開を目指しています。

「3R」のルーツは骨董品販売にあり
古いものに新たな価値を見出し、橋渡しを

 今は価値観が多様化して、調度品や家具類はなかなか売れなくなってきているのは確かですが、例えば20~30年前のヴィンテージアイテムのように昔は特別なものでは無かったのに、今の時代になって新たな価値が見いだされる品物もあります。

骨董品 また、優れた美術品や工芸品を作れる職人が減っている中で、手仕事でしか作れないものの価値を見出し、大切に残していきたいと思う人も少なくないと思います。

 リデュース・リユース・リサイクルといった言わば「3R」は、日本では茶の湯が始まる頃、あるいはもっと昔からあった“ものを大切にする”という価値観が源流にあり、骨董品販売業は廃棄による環境負荷や処理費用の削減だけにとどまらず、古いものに新しい価値を見出し、橋渡しする、そんな仕事だと考えます。

企業データ

カネヒョウ新社屋の完成予想図

令和4年1月竣工予定

本社/〒527-0018
   東近江市八日市清水2-6-4
創業/明治40年
設立/平成16年
従業員/11名(内パート4名)
事業内容/美術品・骨董品・古道具の買い取りと販売、骨董オークションの運営

企業ポリシー

  • 不要になったものを廃棄するのではなく、必要としている人への橋渡しを行う。
  • 道具市場を運営することで、多くの仲買業者に仕入れの場を提供する。
  • 時代の変化に柔軟に対応し、ネット販売などで新たな顧客の開拓に取り組む。

 

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