ミライリポート ~SDGs企業に学ぶ~

株式会社スリーケー 代表取締役 岸田千代子

生産者・消費者・分解者

株式会社スリーケーの商品写真です

生態系の中でのエネルギーや物質の循環は「生産者」「消費者」「分解者」という3者のはたらきによって成り立っている。

「生産者」とは主に植物や植物プランクトンなど、光合成によって無機物から有機物をつくり出す生物。「消費者」とは、動物や動物プランクトンなど、無機物から有機物をつくり出すことができず、食物に含まれる有機物を取り入れて活動する生物。そして「分解者」とは、「消費者」のうち、例えば菌類や細菌類などのように、生物の死骸や排泄物に含まれる有機物を取り入れて活動する生物で、有機物を無機物に分解して、「生産者」がふたたび利用できるかたちに戻す。ずいぶん昔、中学生の頃、教科書で習った話だ。

このうち「分解者」としての微生物に着目し、その力を引き出して、活躍の場を与える事業に取り組んでいるのが株式会社スリーケー(本社:日野町)である(図1)。 自然の浄化の仕組みに関する図です

図1:生産者・消費者・分解者のつながりと循環による自然の浄化のしくみを取り入れる

「3K」を覆す

株式会社スリーケー代表取締役の写真です 良質な有機土壌から抽出した天然バイオ原料をもとに排水管洗浄液をはじめとした商品を開発し販売する「バイオ事業」。食品廃棄物の収集から再利用までを手掛ける「食品廃棄物事業」。この2つの事業を柱とする。

 創業のきっかけは1998年、現在同社を率いる岸田千代子社長が、ある腐植土と出会ったことだった。

 当時まだ別の清掃会社に勤めていた。「きつい・汚い・危険」の頭文字を取って「3K」と呼ばれた仕事だ。ときには自らパッカー車やバキュームカーに乗ってゴミの回収やし尿の汲み取りに出ることもあり、現場の過酷さを身をもって知っていた岸田社長は、業務にあたる人々の労働環境を少しでも改善し、心身の負担をなくしたいと考えるようになった。悪臭の問題もその一つだった。

 そんな時、たまたま会議で同席した知人から消臭効果のある腐植土の存在を教えられた。はじめは聞き流していたが、どうやら本当に効き目があるらしい。「これでみんなの悩みを解決できるかもしれない」。そう考えた社長は仲間を誘って有限会社スリーケーコーポレーションを立ち上げ、本格的に開発に乗り出した。

 といっても、微生物に関してはまったくの無知。バケツでの実験に始まり、試行錯誤の日々。そうして開発した試作液を実際のゴミ収集車に散布してみたところ、確かに消臭効果があることが分かった。大学と共同で行った実証実験では、200戸ほどの集落の農業集落排水で汚泥やにおいの減少が確認された。以来研究を重ね、開発した「排水管洗浄液」は現在、テレビショッピングでも人気の商品となり、リピーターも多いという(図2)。排水管洗浄液の商品写真です

図2:主力商品である排水管洗浄液の特長は3つ。1つ目は洗浄範囲が長い。排口から排水管を通って下水道につながるまでの長い経路すべてを洗浄できる。2つ目は洗浄の仕方。一般に洗浄剤というのは、洗剤が触れたところだけがきれいになるイメージだが、同社の商品は微生物の力を使っているので、配管の360度すべてに効果を及ぼしやすい。微生物が汚れを内側からはがし取りやすくするため、汚れが管の形そのまま、円柱状でするりと出てくることもある。感動した利用者から画像が送られてくることも。3つ目は、微生物たちが配管の内側に定着すると次の汚れがつきにくくなる(同社営業・石丸博章氏)。
右上は国連による「レッドカップキャンペーン」のマークとロゴ(本文参照)。

 2003年に株式会社へと移行、2009年に現社名に変更するのだが、一貫して掲げる「スリーケー」という屋号はまさに、件の「3K」に由来している。「きつい・汚い・危険」に替わる「3つのKで社会に貢献することを目指す」同社の理念を表している(表1)。

表1:株式会社スリーケーのコンセプト
株式会社スリーケーコンセプト図「企業」「商品」「事業」の項目ごとに3つの「K」を頭文字とするコンセプトを掲げる

つなげば「ゴミ」は存在しない
商品作業中の写真です

 ところで、「生産」「消費」「分解」というのは、言い換えれば、「つくって」「つかって」「こわす」ということである。現代人はどうやら「つくって」「つかって」というのはそこそこ得意だが、「上手にこわす」のが苦手なようだ。

 およそ30年前、はじめての「地球サミット」で当時12歳のセヴァン・スズキが「なおし方のわからないものをこわすのはやめて下さい」と訴えた。「なおし方のわからないもの」とは地球環境のことであったが、人類は、長らくそれをこわし続けてきた。それどころか、「こわし方のわからないもの」をどんどんつくり、そして「ゴミ」として放置してきた。

 一方、生物たちの世界にはそもそも「ゴミ」が存在しない。商品作業中の写真です

 死骸や排泄物も「分解者」たちのはたらきによって、つぎの生物のための「資源」になる。「食物連鎖」や「食物網」によって切れ目なくつながった生物たちが、それぞれの持ち場で活動することによって、モノやエネルギーが永続的に循環し、地球環境は保たれる。「ゴミ」というのは、このつながりや循環から切り離されて、行き場を無くしたモノのことだ。

 こうした道理が分かっているから、同社にとって「きれい」であるということと「サステイナブル」であるということはつながっている。暮らしの中の「きれいを維持する」ことに関わる同社の商品・サービスは、人間が生み出した汚れや「ゴミ」をただ取り除くのではない。人間の暮らしの中から排出され、行き場を無くしたモノたちを、微生物たちの手引きによって、次のステージへとつなぐのである。「ゴミ」へと向かう一方通行ではなく、次につながる「資源」として、めぐりめぐる循環の環へ戻してやるのである。

 こう考えると、同社が食品廃棄物のリサイクル事業に乗り出したのも、当然の成り行きと言える。

 商品作業中の写真です
当初は食品廃棄物の収集運搬業者として、飼料加工業者に食品廃棄物を持ち込むだけだった。その搬入先が廃業するというので買い取って、リサイクル事業も始めた。それまでに培った天然バイオの技術を活かして、安全でしかも良質な液体飼料をつくることができた。良質の飼料ができたので、自前で養豚業にも取り組むことにした。食品をめぐる環がつながった。

 この環の中で「ゴミ」はどこにも存在しない。

 「もちろんゴミは出さないというのが原則ですが、出さざるを得ないときには、次の使い道があるんだと想像して扱ってもらえば、それはもうゴミではなくて資源になります。私たちにとってはまさに商品の原料になるわけです」。

こわしてつなぐ責任も

岸田千代子氏と上田先生の写真です こんなふうだから、初めてSDGsに触れたとき、「私たちは既に仕事を通じてSDGsに取り組んでいる!」と思ったという。その場で数えただけでも、自社の事業は17のうち10以上の目標とかかわりがあると考えられた。

ただ、スケールを地球規模まで広げると、食料や富の循環につながれないで飢餓や貧困に苦しむ子らが大勢いる。そこで同社は、WFP(国連世界食糧計画)が進める学校給食支援プログラム、「レッドカップキャンペーン」に加わることにした。ⅰ現在、主要な商品の売り上げの一部を寄付する取り組みを行っている。

今や、人間のつくり出したモノ、つまり「人工物」の総重量は、地球上のすべての生物のそれよりも大きいという。ⅱ

SDGsには「つくる責任、つかう責任」という目標があるが、その「責任」のうちには、つくったモノやつかったモノをきちんとこわして、サステイナブルな循環の環に戻してやる、そんな「責任」もあるのではないか。

微生物に学び、その力を活かしながら、人間の暮らしやいとなみを、自然本来の自浄作用、いわば「きれいの循環」の環につなげることで、同社はその「責任」に応えようとしている。

「微生物の力を知るにつけ、これにも使えるのではないか、あれにも…と、いろんなものが目に付くようになり、ますます想像が膨らんでいます」。

このように語る岸田社長は、あたかも、微生物という、秘めたる力を持った「スター」を発掘し、活躍の舞台へ押し上げようとするプロデューサーか、もしくはマネージャーのようである。

ⅰ  企業がレッドカップキャンペーンマークを付けて寄付付き商品を展開し、売上の一部を学校給食支援に寄付する取り組み。スリーケー社では2021年2月から、同社の4商品で参加している。
ⅱ  Emily Elhacham他「Global human-made mass exceeds all living biomass」『Nature』volume 588, pages442–444( 2020)

排水口の向こうに地球を想像する

タンク写真です じつは取材の数日前、わが家の排水桝の配管が積年の油分によって詰まってしまい、水があふれ出すという騒ぎがあった。シンクは常に掃除をし、見える範囲の手入れはしていたつもりだったが、見えない排水口の先の「定期健診」を怠った。結果、いわば住まいの「腸内環境」が悪化・閉塞し、あるいは血管の内壁にコレステロールがこびりつくようにして、排水管が梗塞したのである。

この失態が示すように、われわれ現代人の水との付き合いは、蛇口から出て、排水口から去る、わずかその間だけのものになってしまった。今便利に使っている水がいったいどこからきて、どこへ流れていくのか。それが見えない。だからこそ、蛇口の手前、排水口の向こうの地球に想像をめぐらす必要がある。水ひとつとっても、自分たちの住まいははるかな山やかなたの海とつながっている。途切れなき循環の一部にある。そうした意識を持たなくてはならない。

取材後さっそく同社の「排水管洗浄液」を使ってみることにした。「排水管を洗浄する」というよりは、「住まいにお薬を投与する」気分。そろそろ効き目が現れる頃。楽しみである。

企業データ

本社:〒529-1628
滋賀県蒲生郡日野町西大路1613
創業:1998年
設立:2003年
従業員:14名
事業内容:バイオ事業、廃棄物事業
HP https://suri-k.com

今回のテーマ

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