からだ・こころ・社会 三位一体の健康を目指して

株式会社レークケア 代表取締役 西村雄一

レークケア写真

滋賀県下・京都府下で調剤薬局・介護施設を展開

「三位一体」の健康

 目覚めてすぐの寝床の中で深呼吸する。たっぷり吸った空気のなかにわずかでも何かのにおい―秋口であれば金木犀の香りなど―を感じたら一言、「異常ナシ」とつぶやいて起きる。

 新型コロナウイルスとの戦いが始まった当初、朝一番にするそんな「儀式」が日課になっていた。

 「感染するともののにおいが分からなくなるらしい・・・」。伝え聞いたそんな情報をもとに、ほとんど迷信のような自己流の安否確認をして、なんとか安心を得ようとしていたのである。既にコロナ禍も3年余を経た今となっては滑稽そのものだが、私たちは当初、未知のウイルスとそれが引き起こす病を、そんなふうにおそれた。

 「すこやかでありたい」というのは、生物にとってあたりまえの願いだ。だから、それを脅かされることへのおそれを抱くこと自体は、生物として当然の反応である。

 けれど、あの当時私たちが抱いたおそれは、じつは必ずしも「すこやかなおそれ」ばかりではなかった。当時の私たちのおそれを分析すると、未知のウイルスに感染して身体の健康が脅かされるという「病そのものへのおそれ」よりも、うっかり病になってしまって、世間から責められつまはじきにされること、つまり「世間へのおそれ」のほうが、その「成分」としては多かったのではないか。だとしたら、そのようなおそれは、けっしてすこやかとは言えない。

 思い出されるのは1947年に採択された「WHO(世界保健機構)憲章」である。同憲章のなかで「健康」は次のように定義される。すなわち「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること(日本WHO協会訳)」である。つまり、真のすこやかさとは、「からだの健康」「こころの健康」「社会の健康」が「三位一体」になってはじめて実現するというわけだ。

 新型コロナウイルス感染症は科学・医療の力によっていずれ克服され、「コロナウイルス感染症のない社会」が実現するであろう。しかしそれにはまだ長い年月がかかるかもしれない。一方で、誤解を恐れずに言えば、「安心してコロナになれる社会」は、私たちの心がけ次第で、今日からでも作れるはずだ。新型コロナウイルスは、WHOが示した「三位一体の健康」の実現に向けた私たちの歩みが、まだまだ道半ばであることを明らかにした。

異業種からの転身

 さて、ここに、一つの会社がある。株式会社レークケア(甲賀市)。まちの小さな薬局にはじまり、「健康を通じて人と人を繋げる」という理念のもと、調剤薬局、介護事業所、医薬品配置販売、配食事業など、地域の健康と福祉にかかわる事業を多角的に展開してきた。

 その先頭に立つ代表取締役西村雄一氏の歩みはそのまま、地域に暮らす人びとにさまざまなカタチの「薬」を「処方」することによって、「からだ」「こころ」「社会」の健康を実現してゆく過程そのものであった。

 旧知の社長から誘われて、運送会社勤務からこの業界に転身したのが1994年。県内で十数店舗を展開していた調剤薬局チェーンが、甲賀市内の量販店に新たに店舗を置くことになり、そこを任された。薬剤についての知識も経験もないなか、顧客に教えられながらの店づくりだった。

西村社長の写真です。

(写真)西村雄一氏。「効くと治すには違いがあります。効くというのは薬品で一時的に症状を抑えること。治すというのは自分の体力・自然治癒力で回復すること。「効く」お薬も大事だけど、しっかり「治して」いきましょう、という話をします」。

15年・18000回の「自宅訪問」

 それを象徴するのが顧客の自宅への訪問だ。きっかけは転身を世話してくれた社長からの一言だった。

 のちに「販売数日本一」という記録を打ち立てるほど薬を売り、自身の店舗を「行列のできる薬局」にまで成長させることになる西村氏だが、当時は悩みを抱えていた。「自分がいいと信じてすすめた保健薬を、お客様は1度は買ってくれるものの、なかなかリピートにつながらない」。素直に打ち明けたところ、社長は言った。「お前のような知識のないもんのところに雨の日も、風の日も、雪の日も来店頂いているそのお客様の家に、お前は一遍でも行ったことがあるんか」。「目からうろこ」の西村氏は翌朝さっそく、スーパーが開店してすぐ「198円のボックスティシュを買い込んで、ばらして熨斗をかけて、スタッフ総出でお客様の自宅を調べて、その日からお家訪問に行ったんです」。以来、600軒の顧客の自宅を年2回、15年間(つまりのべ約18000回)にわたって訪問し続けた。

 15年間顧客のもとに通っていると、夫婦ともに元気だったのが、どちらかが亡くなって独居になったり、車にも乗ることができなくなって出歩かなくなり、だんだん元気がなくなっていく。そんな様子を目の当たりにした経験が、現在同社が推進する「地域見守りネットワーク」の構想へとつながっていく。(図1)

地域見守りネットワーク構想を示す図

図1:地域見守りネットワーク構想を示す図:甲賀を発祥の地とする「配置売薬」の伝統に根ざし、医療・福祉機関と官民のさまざまな主体が連携して、人々の健康を見まもり育む仕組み。

 

こころを励ます絵手紙という「薬」

 顧客の自宅訪問とあわせて、続けてきた取組みがある。それは600軒の顧客に宛てて「絵手紙」を書くこと。例えば、お婆さんがお孫さんを連れて来店してくれたのだとしたら「かわいいお孫さんですね」と書く。病院の検診の結果を不安そうに持ってきて健康相談していった人にはおおきな文字で「大丈夫」と書いて送る。宣伝はしない。

 ある時、高齢の顧客の自宅を訪問すると、西村氏や薬局のスタッフが10年間にわたって送り続けた絵手紙が額装されて玄関に飾ってあった。夫を亡くして一人暮らし。以前こそ友人知人からいろんな手紙も届いたが、今は健康食品の勧誘や、投資の案内ばかり。そんな中で、朝、ポストを開けて絵手紙が届いていると、その日が幸せになるのだ、とその人は言った。からだに効かせる薬とは別に、西村氏らの絵手紙は、顧客のこころを励ます効能を発揮していた。「ただお薬を販売するだけではなくて、手紙一枚でもお客様に元気や生きる希望を届けることができる。それも薬局に出来ることだとわかりました」。

絵はがき(写真)西村氏やスタッフが送った絵手紙。一枚の手紙がこころを励まし、薬以上に効くこともある。西村氏はガンを発症し克服した経験を持つ。「はじめはみんなに隠していましたが、病気になって弱い自分を経験した、その経験を伝えるのも自分の命の使い方まさに使命だと思って、病床から600人のお客様に手紙を書きました」。

 

薬局にコミュニティをつくる

 様々な薬の販売を通じて人びとのからだの健康を支え、絵手紙によってそのこころを励ましてきた西村氏とスタッフが、次に目指したのが「社会の健康」あるいは「社会による健康」づくりである。

 顧客の自宅訪問を通じて目の当たりにした地域の医療・福祉の問題や高齢者の抱える問題。病気でふさぎこみ、こもりがちになるお客様に外に出てきてもらうためにはどうすればいいか――出した「処方」は自宅訪問と絵手紙を通じて培った顧客との信頼関係を土台にして、「薬局にコミュニティを作ること」であった。

 例えば、ある顧客が俳句を趣味とするのであれば、俳句教室を作る。それも顧客の中から俳句の得意な人に指導してもらう。そうして、薬局に出てきてもらう動機付けをする。教室はいまや10を超えるまでになり、薬局の一角では、いつも何かの教室が開かれている。

 顧客とともに出かけることにも挑戦した。顧客にすすめている薬がどのように作られているか、製薬会社の見学旅行を行った。「長く続けて頂くことになる保健薬は、効能はもちろんですが、それ以上にそのお薬に対する安心感も大事です。どういうところで生産されたどんな原材料を使って、どんな工場で、どんな人が、どういう表情で作っているか」。それを確認しに行く。さしずめ「薬のトレーサビリティ」である。

 「それに、薬局に来る人はからだの悩みを抱えておられます。トイレが近かったり、膝が痛かったり…そういう人たちでも、薬局が主催する旅行になら安心して参加してもらえるんです」。

まちの薬局 その先に

 以上のような取り組みを通じて、目指すコミュニティが育まれつつあった矢先に、薬局チェーンが大手資本に統合されることになった。大きな資本の傘下になれば、より大きな仕事ができるだろう。けれど自分は大きな事業をしたいのではなく、地域に根ざした薬局として、地域の人が、住み慣れた土地で、安心して暮らしていくことを支える事業がしたい。なによりも、600人の顧客とともに築き上げてきたコミュニティがあった。ならばこのコミュニティを元手にしようと決断し、会社から譲渡を受けて2013年に創業したのが株式会社レークケアである。

 薬局から生まれたコミュニティはその後も広がり、そしていま、集大成として、デイサービスやグループホーム、障がい者就労支援ベーカリー工房、保育園、学童保育所からなる「甲賀いこい村くらしモール」が完成しつつある。地域医療に献身的に取り組む医師たちや多職種の企業と連携して、共生社会を実現するための拠点。誰もが「肉体的にも、精神的にも、社会的にも満たされて」そこに居ることができる、真にすこやかなコミュニティ。

甲賀いこい村くらしモール概念図です

甲賀いこい村くらしモール概念図

 壮大な構想に聞こえるが、西村氏のこころに浮かぶのは、こんなイメージである。
 「昔地域にあった薬局って、お店に一人おばあちゃんがいて、そこに近所の人が集まって、ストーブにあたってワイワイお話ししていましたよね。若い子も悩み相談に来たりして。元気な人も集まる薬局だった(笑)」。

 かつてあったまちの薬局の延長線上に、健康を通じて結ばれたコミュニティ。その先に「懐かしい未来」が見える。

甲賀いこい村くらしモール外観写真です。

甲賀いこい村くらしモール外観写真

企業データ

本社:〒520-3307
   滋賀県甲賀市甲南町野尻 443-1
設立:2013 年
従業員:70 名
事業内容:調剤薬局事業、一般薬販売事業、介護事業
公式ホームページはこちら>>

今回のテーマ

SDGs3番SDGs項目No.11「住み続けられるまちづくりを」のロゴマーク

 

>>「ミライリポート~SDGs企業に学ぶ~」PDF版はこちら(PDF形式:1MB)新しいウィンドウでPDFが開きます。


ページトップ